「消されたヘッドライン」-絶滅したかもしれない新聞記者の話

09.10.03 by   カテゴリー : レビュー

st2 この映画は元々、英国の連続テレビドラマ「ステート・オブ・プレー(State of Play)」(2003年、BBCで6回に渡り放送)だった。第1回目の放送当時、新聞各紙に絶賛されたと言う。

 新聞業界を扱った作品と言うことで、日本の「クライマーズ・ハイ」(横山秀夫氏の小説。後にテレビドラマ及び映画化)のようなリアルで手に汗を握る映画を想像した。

 4月に映画が公開となったが、テレビドラマを放映した本家英国の評価は必ずしも熱狂的ではなかった。特に疑問視されたのが、ラッセル・クロウ扮する主人公の描写だ。足で情報を取り、今流行りのブログには見向きもしない、昔かたぎの新聞記者という設定なのだが、「どうもヘン」であるようなのだ。「ボサボサの長髪、ラフな格好、机は資料で一杯で身動きができない」なんていう新聞記者は、もういないのでは?と。現在のリアルな新聞記者は「みんなしゃきっとしたスーツを着ている」と。

 考えてみれば、それもそうだった。特に大手新聞社の記者となれば、会社員として職場にいることから、スーツ姿が普通の格好だ。リラックスをした格好をしているのは、ジーンズ姿が多いテレビ界かもしれない。

―友情をとるか、スクープをとるか

 映画の舞台はアメリカの政治のメッカ、ワシントンDC。「ワシントン・グローブ」紙のカル・マカフィー記者(クロウが演じる)は、大学時代からの友人で国会議員のスティーブン・コリンズ(ベン・アフレック)の事務所で働いていた女性職員が地下鉄で亡くなったことを知る。「自殺」と報じられたが、コリンズはマカフィー記者に「自殺では絶対にない」と告げる。女性はコリンズの愛人でもあった。

 コリンズは民間傭兵調達会社の不正疑惑を調査中で、女性の死の背後には国家機密や巨大ビジネスの関わりが見え隠れする。

 マカフィー記者は若い同僚でブロガー記者のデラ・フライ(レイチェル・マッカダムス)と共に真相究明に着手してゆく。

 ドラマは先に進むにつれて二転三転してゆくのだが、アフレック演じるところのコリンズ議員はマカフィー記者に対し、「スクープが取りたくて自分に近づいているのか、それとも友人として質問をしているのか」と聞く。これがこの映画の1つのテーマだろう。やや複雑なストーリー展開(一度で全てを理解できる人は少ないかもしれない)の中で、何度も浮かび上がるのが「仕事熱心なマカフィー記者が最終的にはどこに忠誠心をおくのか」「友人を裏切ってもスクープ報道を優先するのかどうか」という点だ。自分ならどうするだろうー?

 マカフィー記者は議員の妻とも深い関係にあり、公私入り混じっての調査が続く。映画を観ている方も、記者の本心がどこにあるのかと疑問で一杯になる場面が多々あった。

―アナクロ?

 友情か真実追求かで悩むという大きなテーマをひとまず脇に置くと、この映画で最も注目されるのは新聞記者の描き方かもしれない。英新聞が指摘したように、クロウ扮するマカフィーはいかにも古いタイプの新聞記者。見た目がもさっとしていて、何日もシャワーを浴びていない感じだ。車で出勤する場面では一昔かふた昔前の音楽に合わせて車中で歌いだす。何だかいかにも古臭い。1970年代か1980年代をそのまま生きているように見えた。若い女性記者で同僚となるフライに対する態度も古臭い。ネットで情報を集める、ブログに書くのが当たり前というフライ記者を鼻で笑う。今時ネットに対してこんな態度をとる新聞記者なんて、ほとんどいないのではないか。別に見た目なんてどうでもよいのだけれど、あまりにもステレオタイプ的な新聞記者像だった。マカフィー記者がまるで昔の新聞記者(今は存在しない)のパロディーにさえ見えるのだった。

 ベテランの英女優ヘレン・ミレン(映画「クイーン」ではエリザベス女王を演じた)扮する編集長は、「クイーン」の演技が夢だったかと思うほど、薄っぺらい感じに見えた。発行部数や広告収入下落のプレッシャー(ここはリアル)に悩み、記者にハッパをかける編集長役だが、何だかヒステリー気味の上司にしか見えなかった。ちょっと残念である。マカフィー記者の相棒となるフライ記者を「経験不足」という理由で配置換えさせようとするのもさびしい。懐の深さが出るような場面があればと思った。

 終わりの方で、コリンズ議員とマカフィー記者が対決し、議員が「そんなことを言っても何の意味もないよ」というようなことを言う。「どうして?誰も新聞なんか読んでる人はいないからか?」と記者が問い返す。実際、米国の新聞は広告収入の下落と不景気で窮地にある。ドキッとするほどリアルだった。

 最後には事件は解決し、マカフィー記者とフライ記者が共に原稿を作り上げ、紙面に送るキーを押す(本当はゲラの確認などがあるだろうし、ここで作業は終わりではないのだが、それはそれとして)ー。二人の新旧の記者の間に温かい感情が流れる。右往左往したストーリー展開を最後まで見てよかったなと思う瞬間である。

 

 

 

 

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