「日刊ベリタ」アーカイブから 80日間の監禁生活つづる ベルギーの少女連続誘拐殺人事件で救出された女性 メッセージは「同情しないで」
1995年から1996年にかけて、ベルギーを揺るがした少女連続誘拐殺人事件で、80日間の性的暴行・監禁生活から救出された当時12歳のサビーヌ・ダルデンヌさんの体験をつづった本の英語版が出版されることになった。監禁体験は「過去のものになった」とするダルデンヌさんが読者に強く望むのは「同情しないでほしい」という思いだ。(「日刊ベリタ」アーカイブ:2005年4月20日掲載)
英語版の題は「I Choose to Live」(「生きることを選択する」)で、2005年の英語での出版を前にダルデンヌさんは英ガーディアン紙のインタビューで心境を語った。
1996年5月、ダルデンヌさんは通学途中、犯人のマルク・デュトルーに誘拐された。もう一人の当時14歳の少女と一緒に犯人の地下牢に監禁され、性的暴行を受けた。同年8月、少女2人は警察に救出された。デュトルーは2004年、この2人を含む6人の少女を誘拐して性的暴行を加え、その中の4人を殺害した罪で終身刑となった。
人々はダルデンヌさんに同情するが、ダルデンヌさん自身はこうした同情、共感などをわずらわしいものと感じているようだ。「もう起きてしまったことを嘆いてもしょうがないでしょう」
「好き好んであんな状況になったわけではない。私はスターでもなければ、歌手でも女優でもない。現在の自分を誇りに思ってはいるけれど、何か特別なことを成し遂げたわけではない」
しかし、インタビューした記者は、ダルデンヌさんは少なくともこれまでの数年間、「抵抗を続けた」といえるのでないかと分析する。
デュトルーの自供によると、首輪でつながれた80日間の監禁の間、ダルデンヌさんにオーラル・セックスを強要した後、「口直しのため」お菓子を与えたというが、その度にダルデンヌさんは犯人に対して、抗議をし、不満をこぼし、嘆き、困らせたと言う。
「私はとても意志が強い人間だと思う。自分が何が欲しいのか、自分にとって何が大切かが分かっている。絶対にあきらめたりしない。(閉じ込められていた部屋でも)私にとって重要なことは家族に会うことだった。だからあきらめなかった」
1996年8月15日、6日間一緒に閉じ込められていたもう一人の少女レティシア・デレさんと共に監禁状態から解放されてからも、ダルデンヌさんは自分なりの抵抗を続けてきた。
解放後に敵となったのは、周りの人の善意だった。ダルデンヌさんの苦しみをまるで自分のことのように受け止めた家族、友人、医療関係者、警察、事件に震撼したベルギーの社会全体の空気だったという。
「一番性質が悪いのは精神科医だった。私は行きたくなかったけれど、お母さんが行かせた。一度だけ行った時に、女性の精神科医の人がいて、インクのしみのような絵を見せられた。何に見えるかと聞かれたので、インクのしみに見える、と言った。花を持った少女の絵を見せられて、何に見えると聞かれたので、花を持った少女に見える、と言った。それだけ?と言われて、もちろん、それだけです、と答えた」
実際に監禁されたことよりも、その後の「なぜ」という問いかけに苦しめられたという。
母親にも苦しめられた。「お母さんは私に秘密を打ち明けて欲しかったのだと思う。私の苦しみの重荷を軽くしてあげたいと思って。でも、秘密を打ち明けるわけがない。そんなことをしてもどうにもならないもの」
「事件が起きて、それはもう終わった。これで話は終わり。お母さんに話したって、過去を変えることはできない。それに、今の10倍くらいお母さんの気分が悪くなるだけ」
また、犠牲者として振舞うことを期待されたことも苦しかったと言う。「だんだんよくなってはいるけれど、とってもつらかった。今でも仕事に出かけるために電車に乗るとじろじろ見られる。サインをくださいと頼まれたり、私の苦しみを他の人と共有するべきだと言う長文の手紙をもらったりする。レイプされたほかの女性からも手紙をもらって、私の気持ちが理解できる、と書いてある。頭に来る。何も『理解』することなんかない。あることが起きた、そこで終わりなのだから」
2004年、暴行犯の公判に出ていたダルデンヌさんは、約1時間にわたり、監禁状態のことを証言した。最後に質問を許され、「どうして私を殺さなかったのか」とダルデンヌさんは被告に聞いた。
答えは、「だんだん心が引かれていったから」だった。ダルデンヌさんは、笑いをこられることができなかった。
「なんて哀れな男かと思った」。地下牢ではダルデンヌさんを好きなように扱っていた犯人は、今はダルデンヌさんに全く手を出せない状態にいた。「小さく見えた。人生の中で一度も本当のことを言ったことがないんでしょう。全然怖いと思わなかった。笑ってしまうしかなかった」
ダルデンヌさんが今回ようやく体験本を書こうと思ったのは、周囲の人のさまざまな憶測にきっぱりとけりをつけたいと思ったからだと言う。
フランス語で04年発売された本は、ベルギーやフランスで大評判となった。既に22カ国に翻訳されつつあるという。 ダルデンヌさんはベルギーの地方自治体で仕事をしているが、警察に転職する予定だ。事件があったためでなく、父親が警官だったので、小さいときからあこがれていた。2年前から付き合いだしたボーイフレンドもいる。
過去は過去、とするダルデンヌさんだが、事件に関する新聞記事、関連のテレビ番組のビデオ、監禁中に書いていた日記などを大きなトランクに保管している。時々、読み返すことがあるという。「かつて自分だった12歳の少女がここにいる、と思う。もし将来子供ができて、何が起きたか知りたがったら、これを見せることができると思う」(「日刊ベリタ」アーカイブより http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200504201425433)
*日本語訳の本:「すべて忘れてしまえるように―少女監禁レイプ殺人犯と暮らした80日間』 松本百合子(翻訳) ソニーマガジンズ刊




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