ルポ: ゴーストタウンに見る米国の光と影
「ここはいつでもどん底、これ以上悪くはならないだろうよ」と、ダステイ・フェンダーさんはコーヒーをテーブルに置きながら言う。フェンダーさんは、ネバダ州ゴールドフィールドで小さなカフェを開いている。同町は、メキシコからカナダまで南北に走る国道95号線上にあり、約300人が住む。華やかな観光地のラスベガスとは対照的に、この国道沿いにはゴールドフィールドのような小さな町が、時代からとり残され忘れられたかのように点在している。フェンダーさんのカフェの壁には、1909年当時の町の写真がある。ゴールフィールドは、名前が示すように金で栄え、当時の人口は3万人、ネバダ州最大の町であった。1909年から1930年代には当時で8600万ドル(約86億円)相当の金が発掘され、ゴールドフィールドホテルのオープンには、シャンペンが大盤振る舞いされたという。現在は、廃墟となったホテル、レストラン、朽ちた木造の家々が、かつての金鉱の山を背に立ち、金の発掘が止まった1940年代から、時も止まってしまったかのようだ。
住民のほとんどは退職者で、ソーシャル・セキュリテイとよばれる公的老齢年金受給者だ。1930年代の大恐慌時にこの社会保障制度は設立されたが、その当時老人層の貧困率は50%を超えていた。この年金制度は、10年以上加入していれば受給資格が得られる。加入期間や働いていた当時の収入に応じて受給額は決まるが、65歳から満額受給開始、その最低受給額は年間約8000ドル(約80万円)である。2009年度政府が定めている貧困ラインの10830ドル(約110万円)を下回る。
「100年前の木造の家に住んでいる人もいるよ。最低のソーシャル・セキュリテイもらいながら、電気のワット数気にしながら、生活しているよ。クーラー、そんなものはないよ」と、フェンダーさんは通りの向こうの家々を指す。標高1800メートルの地形ゆえ、朝晩は涼しいとはいえ、夏の砂漠地帯の照りつく日差しは老齢者にはきつい。
ー 行くあてのない「トレイラー・トラッシュ」
ここでは、住民はこのような前世紀からの家か、トレイラーハウスに住んでいる。トレイラーハウスは、長さは6メートルから9メートル、シングルワイドで幅は約3メートル、電車車両を思わせる。冷蔵庫、台所のキャビネット、ガスコンロも備えつけられ、中古なら6千ドル(約60万円)から1万ドル(約100万円)程度で手に入り、住むには最も安価な方法だ。
このようなトレイラーハウスに住んでいる人々は、「トレイラー・トラッシュ(ごみのトレイラー)」中でも白人は「ホワイト・トラッシュ(ごみの白人)」と、中上流階級は呼ぶ。わずかなソーシャル・セキュリテイに頼り、トレイラーハウスに住む人々は、社会のごみであり、怠けてアメリカンドリームへの競争に負けたからこうなったと差別的な目を向けられる。
大きな町では、トレイラー・トラッシュは、通常町外れのトレイラーパークに住んでいるが、ゴールドフィールドは町全体がトレイラーパーク。住民間での格差は見られないゆえ、ある意味住みやすいと言えるかもしれないが、ぎりぎりで生活している人々には町を出るあてもないのが現実だ。
ー 頼りにしている社会保障への不安
ゴールドフィールドのようなゴーストタウン化した場所で、多くの老齢者層が頼りにしている社会保障に、かげりがみられている。最近、政府監督機構は、ソーシャル・セキュリテイは、2037年には破綻、昨年の推定より4年早いと発表している。2009年度の支給額は、ここ数年のインフレを基に算出されたので、5、8%の上昇を見たが、2010年度から支給額は減少されるだろうという恐れが老齢者の間にはある。
オバマ政権は、09年5月にソ ーシャル・セキュリテイ受給者対象に一律250ドル(約25000円)の定額給付金を支給している。前年からのウオール街に始まった大手銀行・保険会社への膨大な救済への国民の怒りをかわそうと、その場しのぎの支給のようだ。
ソ ーシャル・セキュリテイに加えて、65才から加入できる政府医療保険制度メデイケアも、もし政府が何らかの手を打たなければ、2017年には破綻するだろうと予想されている。
医療への不安を抱いているのは、高齢年者だけではない。65才に達しない者は民間健康保険に加入するしかない。現在、推定で4600万人が医療保険未加入者だ。フェンダーさんもその一人。「健康保険は、高くて払えない。病気になったらどうしようという不安は常にあるけれど、仕方ないよ」「企業トップ数%じゃなくて、こちらも救済してほしいよ。本当ばかにしているよ」とため息まじりで言う。




Comments