フランスの「ある深夜テレビ番組」の人気の秘密

フランスの深夜テレビ番組に「夜は寝ないよ」というフランス国営放送・テレビA2がある。政治的な色彩の極めて強い論争(デバ)番組なのだが、若い人にも高い人気がある。これは毎週土曜の深夜11時頃から始まるが終わるのはいつも2時30分前後で、約3時間30分も延々と論議が続くのだ。これがまさにフランス的だとは思うのだが、見始めるとそれがだいたいいつも面白いので、最後までテレビの前に釘付けということになる。見逃した人はその週末の日曜日の再放送を待っているほど人気がある。
本やレコード、演劇などで新しい話題になった人を何人かゲストに招待し、その週のニュースと絡ませて話題に取り上げている。この複数の招待者とレギュラージャーナリスト2人、それと司会者のロラン・ルキエール氏が渾然一体となって何のタブーもなく討論するというものだ。
議論は透明性を求めていくために、不透明な人ははじめから招待しても来ないということになっているようだ。そのためか番組ではしばしば「誰々は招待したのだが、今日は来られない」と何回か繰り返される。その度ごとに観客からは残念だとの表現のワーというざわめきが、お決まりのように必ず起きる。
最近ゲストになった幾人かをここに紹介すると、フランス中道右派の民主運動(モデム)のフランソワ・バイル議長。
実力と羨望がありながら2012年の大統領選挙には出馬はしないと宣言しているヨーロッパ・エコロジストのダニエル・コーン=ベンディット欧州議員。
先週から再び話題になっている、カラチ潜水艦売り込みマージン疑惑を巡りバラデュー元仏首相側への賄賂払い戻し(レトロコミッション)疑惑事件関連でサルコジ大統領と対立し戦争状態になっている、ドミニク・ド・ビルパン前首相などがいる。(ここで扱った13日のテレビ出演時ではこの問題はまだ惹起してなかった。)
学者では、元ノルマンディーの首都カン市で市民大学を運営し、反フロイド心理学の本を最近書いた哲学者のミッシェル・オンフレイ氏が出演している。
ー政治風刺画選び
ド・ビルパン前首相が出演した11月13日のテレビの模様を少し紹介する。
この番組の慣例で、登場した人は全員が最近の新聞記事に掲載された政治風刺画を一枚選び、その選んだ理由を説明するという時間が組まれている。
出演していたステファン・ギヨン氏が選んだのはフランス政治の風刺と暴露で有名な週刊紙カナール・アンシェネに掲載された飛行機の絵だ(写真上部)。
ギヨン氏というのはラジオ・フランス・アンテールの番組を担当してブラック・ユーモワで有名で、ラジオの独立性の喪失を指摘し抗議していたが、最近になってサルコジ大統領から任命された国営ラジオ放送の総局長ジャンリュック・ヘス氏から解任された人だ。
風刺画にはパイロット同士の会話として噴き出しがある。「OK! 大統領、操縦室に入ってもいいよ」、「でも、操縦機に触らないように大統領にいってくれ!」とある。
この風刺画は、改造飛行機のパイロットのいる操縦室のすぐ後方が大統領の寝室になっている事を知ってないとあまり面白くない。またサルコジ大統領が何にでも口を出す人だということが前提になっている。
そしてさらに全然別な読み方があるが、これはフランス人のもつコノタション(言語に影をおとした文化背景)から来る理解によるもで、外から見ると誤解が生ずる場合が多い。が、実はここに良きにつけ悪しきにつけ最大の笑いが爆発する秘められたダイナマイトが隠されている。
ー「エアー・サルコ1」とは
以下、直訳ではなく理解のために解説的に意訳して紹介してみると。
この風刺画は、11日から始まった韓国ソウルG20首脳会議に参加するために、サルコジ大統領がはじめて使用することになった大統領専用特別ジェット機を描いている。
国が不況で失業が増大し国民は経済的に逼塞して苦しい時に、約210億円という莫大な資金をつぎ込んで大統領専用ジェット機を調達したことを批判したわけだ。
ギヨン氏は、他国の大統領やローマ法王ベネディクト16世でもこんな巨額な金を出して旅をする人はいないとして、それがどんな誇大妄想な飛行機なのかを説明した。ド・ビルパン氏は膝をたたいて、「うまく言い当てている。その通りだ」と笑って評した。
サルコジ大統領の作った外国訪問専用機はA330-200を改造したもので、改造費は17600万ユーロ(約210億円)だ。機内の3分の2を占めるスペースには大統領専用のキングサイズのベットが置かれ(浴室がある)、サロンと15脚ほどの会議室が2つあるが、後部の3分の1にあたるスペースに約70席のエコノミークラスがあり、そこに随行員、大臣や大企業のVIPがひしめき合って乗ることになるというのである。
ーフランスで愛されるデバ
すかざす、エリック・ゼムールという右派系の当番組レギュラーのジャーナリストが、誇大妄想の指摘に拒否を申し立てた。
すると、同席者のド・ビルパンは、「そんな飛行機は今の世相とかけ離れていて、フランスにはその飛行機を必要とするどんな緊急な理由もないのであり、誇大妄想といえる」、「すでに2機も飛行機があって問題なく動いているのに」と、横から発言する。
さらにだがとして、「この飛行機には一つのパラシュートしか装備されてない」と冗談を飛ばすと、会場の観客からは一瞬間をおいてから、拍手と声援が沸いた。
ゼムール氏の表情にも言葉にも先ほどの威勢は消えてしまったようだ。が、内心はわからない。
ジェット機には、テロに備えて2基の迎撃用ロケットが装備されているという情報も仏国営放送テレビA2のニースではあったが、この番組では触れられなかった。
地方紙のバール・マタン紙などによればこの「エアー・サルコ1」とあだ名された飛行機は、普段はルーアン近くのエブルー軍事基地に格納されているという。また多くの新聞は、この飛行機には最初の3年間で約180億円の保守・整備費がかかることを指摘している。
フランスでは政治論争は「デバ」と呼ばれていて、舞台対決の闘争のようなところがある。かなり厳しいことを相手に突きつけるが、ヒステリックにならずユーモアがあるので観客には楽しいものだ。
デバが受けるのは、それだけ嘘や仮面の虚構がフランスでは日常性の伝統なのだという裏返しの事実の現れだともいえなくもない。日本や英国のように嘘つきが蔑視されるコノタションがないのかもしれない。
そこに一般のテレビやラジオ、新聞が真実をつたえない虚偽の報道も指摘されるわけだ。その一般のメディア情報では満たされない人々が、一瞬の不満のはけ口がを求め、まるで圧力鍋のスーパップ(*爆発を防ぐため水蒸気を少しづつ抜く排出弁)のようにある種の希望の出口を探そうとしてこの番組に集まってくるのかもしれない。それが人気の秘密なのだろうか。
(興味がある方は、以下のビデオでも見られるみたいです。)




Tweets that mention フランスの「ある深夜テレビ番組」の人気の秘密 : ニューズ・マグ -- Topsy.com / 10.11.25 1:14 PM
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